Staff interview
#48
3×3=9パターンの複雑な開発案件を完遂。SSO機能で生徒・先生がより使いやすい『スタディサプリ』へ
生徒向けSSO機能開発チーム
SSO Feature Development Team for Students

01. 担当者プロフィール

担当者プロフィール
- お名前:椛田 紘一郎 / Koichiro Kabata
- 組織名:小中高プロダクトマネジメント部
- 入社時期:2009年 04月

担当者プロフィール
- お名前:黒澤 望 / Nozomi Kurosawa
- 組織名:小中高プロダクトマネジメント部
- 入社時期:2021年 11月

担当者プロフィール
- お名前:吉川 翔平 / Shohei Yoshikawa
- 組織名:教育支援小中高プロダクト開発部
- 入社時期:2019年 04月

担当者プロフィール
- お名前:池田 正人 / Masato Ikeda
- 組織名:教育支援小中高プロダクト開発部
- 入社時期:2019年 10月
Microsoft、GoogleなどのアカウントID・パスワードを使用することで、連携させたアプリやWebサービスにもログインできるようになる「シングルサインオン(以下、SSO)」機能。『スタディサプリ』では、2025年3月24日に学校経由で利用する(BtoB)生徒向けにこのSSO機能をリリースしました。一見すると小さな仕様変更にも思えるこの機能は、ユーザーである生徒や先生にとってどのような意味があるのでしょうか。このプロジェクトチームを代表して、椛田紘一郎さん、黒澤望さん、吉川翔平さん、池田正人さんの4名に話を聞きました。
02. ログインの利便性を高め 、学習の“入口”でつまずく生徒を減らす
Q:まずはこれまでの経歴をご紹介ください。
椛田:私は2009年にリクルートへ新卒入社し、長くHR(人材サービス)領域でサービス開発や商品企画に携わってきました。HRの事業での経験を活かして次なるチャレンジの場として希望したのが『スタディサプリ』を有するまなび事業です。「学び」は「仕事」と同じくらい人の人生に影響するものですし、小中高での学習は、人生において「仕事」よりも手前のライフイベント。生徒一人ひとりの将来の可能性を広げる意義を感じて、2022年から学校向け(BtoB)の『スタディサプリ』でプロダクトマネジャー職を担当しています。
黒澤:私は高専出身。20歳でICTソリューション企業に就職し、技術営業と新規事業開発を3年ずつ経験したのですが、そこで事業開発の難しさを感じたのが転職理由です。より大きな規模のサービス開発を行っている環境で経験を積みたいと考え、リクルートに転職してきました。まなび事業に飛び込んだのは、自分自身が家庭の経済的事情で高専卒業後すぐには大学に編入できなかったのも理由の一つ。私は社会人になって働きながら大学に通うという選択をしましたが、世の中には学ぶ機会の不平等があることを実感していましたので、『スタディサプリ』のビジョンに共感したんです。2021年に入社し、はじめは個人向け(BtoC)の中学・高校講座を担当。2023年10月よりBtoB領域も担当することになり、学校現場における学習体験の設計を担当しています。
池田:私は2019年に、IT系のスタートアップから転職してきました。転職理由は黒澤さんと近いのですが、大きな組織ならではの環境で開発をしてみたかったから。入社直後は、BtoC向けに「志望大学の難易度に応じた学習スケジュール作成機能」などの開発を担当しています。2020年以降はプロダクト基盤の開発組織に所属。『スタディサプリ』のシステムの裏側で動いている各種データ処理やセキュリティ管理といった領域を担当しています。
吉川:2019年に新卒入社し、最初はiOSエンジニアとして『スタディサプリ』のアプリ開発に携わっていました。3年目からはテクニカルプロダクトマネージャー(TPM)を兼務。今はTPMを主務として、『スタディサプリ for TEACHERS』などを担当しています。まなび領域への配属はたまたまでしたが、6年ほどの経験で感じるこの領域の醍醐味は、誰かの人生にポジティブに関われること。ユーザーから、『スタディサプリ』を使って希望の進路に合格できた、といった反響を聞くのが嬉しいです。
Q:では、今回のプロジェクトについて教えてください。
椛田:このプロジェクトは学校向けの『スタディサプリ』を対象にした取り組みです。小中高の教育現場では、『スタディサプリ』を教材の一つとして授業や宿題に活用していただいています。しかし、ある一定割合で生徒がID・パスワードを忘れてしまい、ログインできなくなるという事象が発生していました。学習に消極的な生徒の場合、ログインでつまずいた時点でそこで学びを諦めてしまうことにも繋がりかねません。また、ログインできない場合にID・パスワードの再 発行をするのは管理者である先生の役割。ただでさえ忙しい先生たちの業務負荷になっている懸念がありました。
そこで、生徒がログインを安全かつ簡単に行えるようにするために取り組んだのが、SSO機能の追加。近年、小中高の教育現場ではICTの活用が進んでおり、クラウドサービス等を利用するためにMicrosoftやGoogleのアカウントを生徒一人ひとりに発行しているケースも多いです。このアカウントで『スタディサプリ』にもログインできるようにすれば、サービスごとにアカウントを管理する煩雑さを解消し、生徒・先生双方の負荷を減らしながら、スタディサプリの学習体験を届けられるのではないか。それがこのプロジェクトの狙いでした。
03. 過去何度も断念していた機能追加。それでもやるべきと、意思を込める
Q:SSO機能を導入しようという発想はどこから来ているのでしょうか。
黒澤:実は、この発想自体は誰もが思っていたことで、プロダクト組織のみなさんの共通認識という印象。学校で起きている事象を知る営業組織のみなさんからも常々要望が上がっているような状況でした。
Q:これまで実現していなかったのはなぜですか。
椛田:過去にも別の担当者が何度か検討はしているんです。ただ、誰もが必要性を感じていながら開発の優先順位をなかなか上げられなかったのが実情。というのも、SSO機能自体は直接的な学習機能・体験 ではなく、あくまでも周辺機能です。これを実装したとしても事業やマーケットへの影響は限定的なのではないか。SSO機能を実装する価値を上手く説明しきれず、社内合意の難易度が非常に高かったんです。
Q:では、今回はどのようにして開発まで進められたのでしょうか。
椛田:「意義は分かるけど価値の大きさが見えにくい」ことが課題だと捉え、合意に必要な検討の解像度を上げることにこだわりました。例えば、通常は要件定義以降の段階で行うことが多いプロトタイプの制作を、ビジネス検討の段階で実施。開発工数・予算の見積り精度を上げ、実際の開発における懸念事項の洗い出しも事前に行っています。また、営業現場からの意見を丁寧に拾うことでSSOの必要性を明確化。「SSOを契約の必須条件の一つに挙げるクライアントがいる」といった営業の意見をまとめ、SSOの実装はビジネス上のリスク解消にもつながることを明示しました。
黒澤:社内の合意形成の難易度が高かったのは、開発の対象が「ログイン機能」であることも理由のひとつです。『スタディサプリ』のプロダクトを横断した共通機能のため、単にBtoB領域の中だけで完結できるものではなく、BtoC領域や進路事業にも影響すること。あらゆる組織の人たちが関わってくるため、「この体験設計にすることでかえって不便になる生徒・先生はいないか」「BtoB以外のプロダクトでエラーが起きる可能性はないか」といった検討・調査が欠かせなかった。影響範囲を想定し、丁寧にコミュニケーションをしながら、事業全体にとってより良い形を模索し続けるところが大変で したし、こだわった部分でもあります。
04. 規模が大きく複雑なシステム開発を、いかに納期通りに実現させるか
Q:システム開発の側面ではどのようなハードルがあったのですか。
黒澤:一番の問題は、開発の影響範囲が広く多大な工数がかかること。というのも、iOS、Android、Webで3通りの開発が必要なことに加えて、学校によって生徒に配布しているアカウントが異なるため、Microsoftアカウント、Googleアカウントの2種類と、アプリをAppStoreに出す上で必須となるAppleアカウントを加えた3つの認証方式をつくらなければいけない。つまり、3つのプラットフォーム×3つの認証方式の掛け算で、開発工数が膨れ上がってしまうことがネックだったんです。
Q:大規模な開発をどのようにして進めていったのでしょうか。
吉川:私が特にこだわったのが、いかにスケジュール通りにプロジェクトを進行させるか。なぜなら、学校で使われるプロダクトという性質上、年度途中の仕様変更はあまり好まれず、新年度がはじまる4月にあわせてリリースするのが理想だからです。もし遅延するならリリースを1年ずらすという判断もありえたため、そうすると生徒や先生に丸1年も不便をかけてしまうかもしれない。だからこそ、実際に開発がはじまってから想定外のことが起きないように、事前の検証段階から参加して不確実性を可能な限り排除。開発中もエンジニアの朝会 に毎日顔を出し、タイムリーに状況を把握しながら方針や体制を柔軟に対応できるようにしてきました。
池田:開発の順番は、まず先に私が担当しているプロダクト基盤の部分をつくって、iOSやAndroidなどのクライアント側の開発チームに、私たちが設計した仕組みに沿って開発をしてもらうという体制。私たちのパートで開発が遅れると後ろの工程も全部止まってしまうので、なかなか緊張感がありました。しかも、先ほど椛田さんが話したような3×3の9パターンを想定すると、考慮すべきポイントがいつも以上に多かったですね。特にログイン機能ですからセキュリティに関する観点は非常に重要。いくら新年度に間に合わせたいとはいえ、安心・安全に使っていただくには「動けば良い」という品質ではいけない。追加で検討しなければならない点がいくつかありましたが、そこは妥協せずにスピードとクオリティの両方にこだわり続けようという目線で、プロジェクトを進められたのが良かったと思います。
吉川:プロジェクトチーム全体で一体となって柔軟な進め方ができたのも良かったですよね。例えば、通常はテストを最後にまとめてやりますが、そこで問題が発覚すると巻き返しが難しくなるので、今回はテストを分割にしました。開発自体もGoogle → Microsoft → Appleの順番で着手し、開発が終わり次第テストを並行して実施するという体制に。テストで見つかった不具合を後続の開発にもフィードバックすることで、全体としても効率的に進んでいます。

05. 生徒・先生の利便性が向上。SSO機能が決め手となって新規導入が決まった学校も
Q:取り組みを経て、どのような成果や兆しが見えていますか。
黒澤:2025年の3月24日に無事リリース。予定通り新年度に間に合わせることができました。これにより、1度アカウントの紐づけをすれば、以後は普段使っているアカウントでログインすることが可能になっています。ID・パスワード忘れの低減につながると共に、複数のデバイスで『スタディサプリ』を使っている生徒の利便性も向上。例えば授業では学校から貸与されたタブレットを使い、自宅や通学中では個人のスマホを使うといったケースにおいて、ログインがしやすくなったという声も届いています。
また、この機能追加が営業貢献に繋がったのも成果の一つです。SSOが後押しとなって、ある自治体の学校教材として『スタディサプリ』を採択いただいたケースも早速出ており、他の自治体・学校でも導入・継続のポジティブな判断材料として受け止めていただいています。
Q:みなさんは、このプロジェクトを通してどのような手応えを感じていますか。
椛田:効果を語りづらいことがネックでなかなか実現しなかったSSO機能ですが、実装後すぐに明確な成果が出たことに手応えを感じています。どんなに困難でも、自分がやりたい・必要だと信じたことなら挫けずに徹底的に突き進んでみる。その大切さを今回学んだ気がしますね。
黒澤:このプロジェクトのように関係者が多く工程が複雑なものは、遅延しがちなのですが、今回は予定通りリリースできたことが嬉しいです。それはエンジニアのみなさんの頑張りがあってのことですが、自分としてはこのプロジェクトに携わるみなさんに分かりやすく道筋を立て、リスクを最小化して進められたことが、良い学びになりました。
吉川:自分も大規模プロジェクトを無事にやり切った達成感をすごく感じていると同時に、リリース後のユーザーの反響を聞くのが嬉しいですね。プロジェクトを通して生徒や先生、営業のみなさんの声をいつも以上に聞けたことが、自分の仕事の意義を再認識するきっかけにもなりました。
池田:冒頭の話にもあった通り、SSOってなんとなくみなさんが欲しいと思っていた機能でもありましたから、リリースの目途が立ってからは社内外の各所からポジティブな声が届いているんです。私が担当しているプロダクト基盤は、ユーザーからはあまり見えない部分ですが、今回のプロジェクトを通して自分の仕事の先にもちゃんとユーザーはいるんだと改めて実感できたことが励みにもありました。
Q:では、最後に今後みなさんが実現したいことを教えてください。
池田:今回はなんとか無事に開発を完遂できましたが、反省点もあります。もっと盤石な開発体制でより良い機能・サービスを早く・たくさんつくって、生徒や先生に貢献していきたいです。
吉川:自分の場合は、プロジェクトマネジメントを極めたいですね。 そのスキルを活かして『スタディサプリ』をより良いものにしていくのはもちろん、リクルートの他領域にも挑戦しながら、大規模で複雑なプロジェクトを安心して任せられる人になりたいです。
黒澤:今回のプロジェクトは、ユーザーの不便を解消するのが目的。もちろんそれも大事な一方で、私はポジティブな価値をつくって届けることにもこだわりたい。不確実性が高い現代社会において、自分で考え・行動し・何かを成し遂げていくような経験を積むことは非常に大事ですから、その一歩目を踏み出すような役割を『スタディサプリ』が担えるようにしていきたいです。
椛田:私は、「学ぶ」とは自分の可能性に気づいたり将来の選択肢を広げたりする機会なのだと考えています。『スタディサプリ』を使っている生徒の進路は、進学や就職など多様です。あらゆる立場の人が学ぶという習慣を身につければ、自分で未来を切り開ける人が社会全体で増え、日本もポジティブに変わっていくはず。だからこそ、『スタディサプリ』を通して学びの面白さや価値をこれまで以上に伝えていくことを目指していきたいです。
記事中で紹介した事業(名称や内容含む)や人物及び肩書については取材当時のものであり、現時点で異なる可能性がございます。