Staff interview
#28
01. 担当者プロフィール
担当者プロフィール
- お名前:鈴木 沙織 / Saori Suzuki
- 組織名:小中高 B to C プロダクトマネジメント部
- 入社時期:2017年 09月
2021年度に中学校教科書の改訂が行われることになり、スタディサプリ中学講座の学習コンテンツも改訂することとなりました。そしてこれを機に、以前から漠然と多くのメンバーが感じていた「システムやアプリも、中学生の勉強に沿うよう最適化していくべきではないか」という問題意識を形にし、全面リニューアルに結びつけたのが「taraプロジェクト」です。ゴールに向けてプロジェクトを率い、多くのユーザーの声を拾い上げながらより良い形に仕上げていった鈴木沙織さんに、プロジェクトを振り返ってもらいました。
02. 戦略立案だけでなく、事業そのものに携われる場を求めリクルートへ
Q:鈴木さんの経歴を教えてください。
鈴木:私は2014年に戦略コンサルティングファームに新卒で入社し、3年半ほどコンサルタントとして経験を積んできました。食品メーカーや消費財メーカーを中心に中長期経営戦略や新規事業戦略、R&D戦略の策定に携わっていました。たとえば、ペットボトル容器一つ取ってもいろいろな技術の芽があり、それらを事業貢献のために選定したり組織体制を構築するサポートをしたり、といった仕事を、お客様とともに取り組んでいました。
Q:リクルートへはなぜ転職してきたのでしょうか。
鈴木:戦略立案中心ではなく、自分で事業を動かしてみたいと考えたことが理由です。2017年9月にリクルートに転職し、最初の2年は保育園向けの業務支援サービ スにおいて、それまでのバックグラウンドを生かして事業企画の立案に携わりました。その後事業方針の転換に伴い、スタディサプリに携わることになりました。
Q:スタディサプリでのミッションを教えてください。
鈴木:プロダクトマネジメントに携わっています。「事業戦略を作り、伸ばしていきたい」という思いに加えて、それをプロダクトそのものに落とし込む部分まで担う形です。前職の業務と比べると、現場を理解した上で戦略を、実行していくところまで責任を持って遂行する点が大きな違いだと思います。そうした姿勢でスタディサプリの小学・中学・高校講座を生徒さんに届け、伸ばしていくミッションを、プロダクトの責任を持つ私とマーケティング担当とで協力しながら戦略を議論し、推進しています。
03. コンセプトとのずれを修正しつつ、ユーザーの声を元に適切な目標を目指す
Q:鈴木さんがリードし、MVPを受賞することになった「taraプロジェクト」とはどのようなものですか。
鈴木:スタディサプリは「経済的、地理的な理由から発生する教育環境格差を解消し、すべての人たちに学ぶ機会と楽しさを提供したい。」という想いから生まれたサービスです。高校の受験勉強支援として質の高い予備校の授業を、高校生が格安で受けられることから始まっており、そのフォーマットを踏襲して中学講座、小学講座も作られてきました。しかし、部活等で忙しく体力がまだ成長途上の中学生にとって、1コマ45分の予備校授業フォーマットはフィットしていないのではないかという問題意識がありました。また、大学受験を控えた高校生ならば、授業以外に自分で問題集を購入し、演習ができると思いますが、中学生の段階では授業時間を短くし、その分問題演習をしっかり行って、知識を自分のものにしていく方が大事ではないかと考えていました。
そんな折、中学教科書の改訂が行われることになりました。これに伴い授業動画の撮り直しが必要になりましたが、せっかくならばこのタイミングで、よりよい学習体験を作るため、コンテンツだけでなく動画視聴に最適化されていたシステムやアプリも変え、中学生が勉強していくのに最適なものへリニューアルしようという目的で始まったのがtaraプロジェクト(taraというプロジェクト名は社内通称)です。
Q:プロジェクトを進めるにあたって重視した点はありますでしょうか。
鈴木:最初はユーザーニーズを踏まえコンセプト設計を行い、その後のプロダクト開発でもユーザーの声を聞くことを重視していました。もちろんそれ以前から、インタビューやアンケートを通してユーザーの声を集めていましたが、taraプロジェクトでは中学生のお子さんはもちろん、保護者の方にもお会いし、ひたすらお話を伺いました。2年半前にプロジェクトを始めてから、おそらく100人以上に話を伺ったと思います。
話をスムーズに引き出すために、中学生に人気のゲームや雑誌を読んだりして、話題を合わせるよう心がけました。コンセプト設計のためのインタビューの中では「自分一人ではなかなか続けられない」「動画なので、長いと寝てしまう」といった声があり、やはり授業の動画よりも演習が大事ではないかという仮説に確信が得られ、さらに調査を繰り返し、課題を明確化していきました。
Q:見出した課題とはどんなものでしたか。
鈴木:ある程度自分で学習方法を確立させている高校3年生とは異なり、中学生の段階ですと、自分でスケジュールを立てて学習を進めていくのはなかなか難しいものです。そこで、「次に自分は何をやればいいのか」がすぐにわかるようなシステムが望まれていると考え、そのコンセプトを実現するUX、UIを設計していきました。
リニューアル前は、たとえば「中1の数学を勉強しよう」と思ってタップすると、ホーム画面に講座一覧が表示されます。多くの講座が並ぶため、「どれからやろうか……」と迷ってしまうかもしれません。これに対しリニューアル後は新たに「ミッション」という機能を追加し、ユーザーが何から取り組めば良いかがすぐわかる形にしました。こちらからどんどん「次はこれをやってみよう」と進めていく作りになっています。
Q:リニューアルのコンセプトは素晴らしいのですが、形にするにはいろいろな調整が必要だったのではないでしょうか。
鈴木:そうですね、コンテンツ担当とエンジニア、マーケティング担当などを含め、全体で50人ほどのプロジェクトになりました。ただ、プロジェクトを進める上で大変だったのは人数よりも、期間の長さでした。
Q:期間が長い方より、短い方が大変だと思うのですが……。
鈴木:一機能をリリースするような開発プロジェクトならば、どれほど長くても半年〜1年もあればリリースできるのが通例でした。しかし今回は中学講座を完全にリニューアルする大がかりなプロジェクトであり、全体で2年ほどかかりました。2年も時間があると、どうしても当初のコンセプトとプロジェクトの現状にズレが生じてしまいます。そこを整理して元に戻したり、逆にユーザーの声を元に新たに変更していったりしました。そこが一番大変だったように思います。
しかも、2年前に決めたコンセプトですから、当初の狙いと現実とにずれが生じることもあります。仮説に基づいてプロダクトを作り実際にユーザーに当ててみたら、思ったほど刺さらなかったこともありました。そのたびに方針を少しずつ変え、それに合わせて仕様も変更していく作業を繰り返していきました。
Q:アジャイル開発のやり方ですね。
鈴木:そうですね。基本的にはアジャイル開発でした。ただ、2週間ではユーザーに試してもらえるものまでは作れないので、ひとまずテストができる段階に至るまでは少しウォーターフォール的な手法で進め、ユーザーに当てる段階まで来た後はこまめにチューニングしながら進めていきました。そのため、厳密な意味では当初プロセスはアジャイルとは言えないかもしれませんが、現在の追加開発フェーズも含めてアジャイルで開発を行っています。
Q:鈴木さんが取り組んだ「段階リリース」とはどのような試みですか。
鈴木:巨大なプロダクトをリリースする、いわゆる「ビッグバンリリース」では、アクセスが集中したり、潜んでいたバグによってアプリが落ちてしまう懸念があると考えていました。そうした事態を避けるため、ユーザーをいくつかのグループに分け、まず最初は500人を対象に、次は1000 人に……と言う具合に区切りながらリリースし、問題がないことを確認しながら新しいバージョンを提供していきました。
これは、私としては普通のことをやったつもりでした。しかし、これまでは開発者側でβリリースをすることはあっても、学習ビジネスは年度単位で動いていくビジネスなので、年度の途中にアプリを変更するのが難しい事情がありました。また、子どもが使うサービスなので、ユーザー体験の制御が難しいのではという懸念もあり、これまであまり取られていなかった方法だったと認識しています。そこで、自分の手持ちの手法の中から開発者にこんな方法があると提案し、理解を得ながら一緒に推進できたことがよかったのではないかと思います。
Q:他に、プロジェクトを通して印象的だった出来事はありますか。
鈴木:今回実施したユーザーへのインタビューはちょうどコロナ禍の最中だったため、Zoomを活用しました。Zoomでインタビューをすると、インタビュアーの私だけでなく開発者やデザイナーも参加できます。多いときには参加者が50人ということもありました。また、見えにくいのではないかという懸念があった手元の操作も、画面を投影してもらうことでよくわかりました。
オンラインインタビューになったことで、結果的にエンドユーザーが実際にプロダクトをどう使っているかを全員が認識することができ、作り手とエンドユーザーとの距離が非常に近くなりました。これは素晴らしいことだと思っています。
プロジェクトメンバー全員が生の声を聞けるため、私がインタビュー内容を元に「こんな感想があり ました」とレポートするよりも、メンバーの納得度も上がりました。そして、皆がユーザーのことを知ろうとしてインタビューに参加し、その声を元に「自分たちはこう思っていたけれど、こうした方が使いやすいだろう」と、おそらく私の把握していないところでさまざまなチューニングが行われていきました。結果として、プロダクトの質も向上していると思います。プロジェクトに携わる人数が多くてもぶれることなく進めることができたのは、ユーザーの意見を皆で聞くことができたことも要因の一つだと思います。
Q:では、今後もこのやり方を続けていくのでしょうか。
鈴木:そうですね。もちろん、オフラインにはオフラインならではの情報がありますから、半々で使い分けていこうと考えています。ただ、インタビューを通じてユーザーの意見を拾う幅が広がり、かつそれが組織の中で知見として生かされ、定着していることを実感していますし、やっていて良かったなと思います。
Q:鈴木さんのインタビュースキルは素晴らしいと評価されているそうですね。
鈴木:私が元々得意なのは戦略を作ることであり、プロダクトのUI/UX設計はそれほど経験がありませんでした。そんな中で、自分が最もバリューを発揮できるのはどこかを考え、一つの答えがインタビューだったんです。話すのは苦手ではありませんでしたが、何度かインタビューをしていくうちに「どうやら他の人よりも少しだけうまいようだ」と実感しました。そして、インタビューを通じてプロジェクト内でバリューを発揮できるんじゃないかと思い、本を数冊読んで体系的に学んだり、他の方のいいところをまねたりしていきました。
04. 仕事は基本的にとても楽しいもの、そして一人ではできないもの
Q:二年間という長丁場のプロジェクトで、モチベーションをどのように保っていったのでしょうか。
鈴木:数ヶ月単位でプロジェクトが変わっていた前職とは異なり、2年間もかかるプロジェクトに携わることになったので、最初の頃はネガティブな気持ちになったのも事実です。けれど、多くのユーザーに会ってお話を伺い、さらにユーザーテストを通して、自分たちがやっていることのどこが正しく、どこが間違っていたかのフィードバックを得るようになって、「この子たちにきちんとプロダクトを届けたい」というモチベーションにつながっていきました。
Q:プロジェクトを通して、鈴木さん自身が変わった部分はありますか。
鈴木:スキルがある方々と一緒に働くことができ、UXについ ての知見が身についたり、モチベーションを維持するためのプロジェクトマネジメントを考えることができるようになったと思います。アプリを見れば「このUI/UXはいけているか、いけていないか」をユーザー目線で見当をつけることができるようになりました。また、アプリやシステム開発に要する工数も、ざっくりとですがイメージできるようになりました。新しい価値を届けたいと考えた時に、その実現可能性を、より高い解像度で把握し、実現することができるようになったと思います。
逆に、私がこの二年間かけてやってきたユーザーテストのやり方を、チームのメンバーに伝えるようにしています。私自身がうまくできなかったことの反省も含め、ユーザーの声をきちんと聞くためのスキルを小中高のプロダクトに関わっている人たちに伝え、それが文化として定着させることができたと思っています。
Q:楽しそうに仕事をしていますね。
鈴木:私は、仕事というのは基本的にとても楽しいものだと思っています。せっかく自分に何らかのスキルがあるのなら、それを生かして楽しく働き、価値を発揮していくのが使命ではないかと考えています。とはいえ、苦手なことはやっぱり苦手です。ですから、自分が苦手な領域は他の人と協力しながら、たとえば「私はこっちのエリアを守るから、あなたはこっちをお願いね」と互いに背中合わせでカバーし、話し合いながらやっていければと思っています。一人では世の中に大きな価値を提供することができませんから。
Q:では最後に、今後取り組みたいことを教えてください。
鈴木:taraプロジェクトのアウトプットとして、リニューアル版の中学講座を世に出すことができましたが、まだまだ改善の余地はあると考えています。学習サービスとして多感な時期の貴重な時間をいただく以上、しっかりと成果がでるプロダクトへ向けて磨き続けていきたいと考えています。
より中長期的には、5教科にとどまらず、教育という観点で人が新しい機会に出会える場を作っていければと考えています。偏差値を上げるだけでなく、子供たちの可能性を最大化するきっかけになれる、そんなプロダクトを出せるとうれしいですね。
Q:転職してきてtaraプロジェクトをやり遂げた今、リクルートという会社のいいところは何だと思いますか。
鈴木:組織階層に関係なく、フラットに自分の思ったことを発言でき、それを皆が聞くことのできる会社だということです。taraプロジェクトも非常にフラットな場でした。エンジニアから「そのビジネスの筋はよくないんじゃないか」と指摘され、最初は「えっ」と思いましたが、考え直してみればもっともだなと感じたことがありますし、逆に私も、思ったことはどんどん言っていきました。もう一つの魅力は、戦略を立てて「あとはよろしく」でいなくなるのではなく、戦略が実行されるところまで一貫して責任を持てること、そしてそれだけの裁量が渡されていることだと思います。
取材時期:2022年4月
記事中で紹介した事業(名称や内容含む)や人物及び肩書については取材当時のものであり、現時点で異なる可能性がございます。
スタディサプリの開発主体であったQuipper Japanは組織再編のため、2021年10月に株式会社リクルートに事業譲渡しています。