Staff interview
#54

01. 担当者プロフィール

担当者プロフィール
- お名前:美馬 優貴 / Mima Yuki
- 組織名:Englishモバイル開発G
- 入社時期:2016年 04月
目覚ましい勢いで生成AIの利活用が進み、今や業務で利用する人は40%とも、50%とも、あるいは70%を超えるとも言われています。ただ、本当に生成AIを使いこなし、成果や価値に結びつけられているかを問われると、「はい」とはっきり回答できる人は少ないのではないでしょうか。
そんな中、Englishモバイル開発グループの美馬優貴さんは、Claude CodeとGitHub Actionsを組み合わせたシンプルな仕組みで既存コードの探索を可能にする『Dr.English』を作成し、仕様の調査やカスタマーサポートから寄せられる問い合わせへの対応時間を大幅に減らし、仲間の働き方を文字通りがらっと変革させました。その経緯やAIとの向き合い方のコツについて伺いました。

02. AIを駆使し、周囲の凄腕エンジニアから刺激を受けながら開発に携わる
Q:美馬さんはどのような業務に携わってきたのでしょうか。
美馬:自分は2016年にリクルートに新卒で入社しました。保育園向けDXサービス『キッズリー』に従事した後、二年目から『スタディサプリENGLISH』に配属され、Androidアプリの開発に携わってきました。その後、一度仮想通貨取引所のスタートアップへ転職したのですが、2019年に再び『スタディサプリENGLISH』に戻ってきました。
Q:ずっとエンジニアとして開発を行ってきたのでしょうか。
美馬:そうですね。大学在学中から個人事業主としてAndroidアプリの開発を行っており、今も副業でコードを書いています。
Q:個人事業主の方が自由度が高そうにも思えますが、それでもリクルートという会社で『スタディサプリ』に携わり続けているのはなぜですか。
美馬:転職後、再び戻ってきた理由は明確です。社内に優れたエンジニアが多数おり、新しい知見を得られるからです。自分はフロントエンドが専門ですが、他、Flutterのコントリビューターの方が近隣にいて「すごいな」と思っていますし、他にもサーバサイドなど異なる領域も含めて非常に強い方々がおり、いい刺激をいっぱいいただけるのでとても楽しいです。
それに、リクルートという会社はベンチャー企業と変わらないくらい自由に働ける会社だという理由もあります。勤務形態はフルリモートも含めて自由に選択でき、副業で知見を貯め、それをしっかり還元してほしいといった方針も相まって、バランスよく働ける会社だと思っています。
Q:エンジニアの立場からは、今、広がり始めているAIの活用も無視できませんよね。
美馬:コードを書く部分だけに限っても、自分も、もうAIがないと仕事ができないくらいに活用しています。僕らのチームでは主にClaude Codeを利用していますが、特にこの数ヶ月は目を見張るほど劇的に進化しており、コードの生成でもレビューでも信頼を置けるようになっていますね。
他にCursorやCopilotも業務で利用していますし、希望を出せばCodexも利用できるなど、会社としてかなり投資され、柔軟に利用できる環境になっています。同時に、同僚たちがAI利用に関するルールや推奨プロンプトを整備し、さらにしっかりチューニングを加えてくれているので、AIから非常に良いアウトプットが得られており、仕事がかなり楽にできています。

03. シンプルな仕組みながら「ある前とある今とで働き方を変えた」『Dr.English』
Q:美馬さんは今回、AIを活用した既存コード探索基盤『Dr.English』の構築と運用を評価されてMVPを受賞されましたが、『Dr.English』とはどのようなツールですか。
美馬:一言で言えば、既存のソースコードから仕様を読み取れるサービスです。「ここの仕様って今どうなってたっけ?」と雑に聞くだけで、ソースコードを探索して正しい仕様を見つけ、回答してくれます。これによって、カスタマーサポートなどから寄せられる質問により迅速に、正確に回答できるようになりました。
Q:以前は仕様が整理されていなかったということでしょうか。
美馬:いえ、システムの仕様やドキュメントを管理できるSaaSサービスは世の中にたくさんあり、我々も管理してきました。
ただ往々にして、開発が先行してしまったり、ドキュメントの更新を忘れたりで、ドキュメントが古くなってしまうケースは珍しくありません。あまりよくないことかもしれませんが、「ソースコードが今一番正しい仕様書である」という状況になってしまうのが現実です。そこで「ソースコードを見にいけば、現時点で今一番正しい仕様が得られる」という点に着目して『Dr.English』を作りました。
Q:『Dr.English』はチャットボットのようなツールなのですか。
美馬:当初は、GitHubでIssueを切るとGitHub Actionsが発火し、Claude Codeが動いて回答を探し、GitHub Issueにコメントを返すというシンプルな仕組みでした。リリース後に、同僚がSlackから直接『Dr.English』にアクセスできるような仕組みを作ってくれたりしたため、今ではほぼチャットだけで完結できるようになっています。
Q:開発には苦労しましたか。
美馬:『Dr.English』はソースコードを集めてきて、それに対して質問をするとパイプで返してくれる非常にシンプルな仕組みです。開発にかけた時間も非常に短かった記憶があります。
もちろん『スタディサプリ』で扱うアプリのソースコードは大量で、AndroidやiOS、Webサーバ、インフラやデータベースなどすべてを一つにまとめると数万行で済みません。ですから「本当に動くのかな」という思いもありましたが、やってみたらうまく動いてしまった、という感じです。
また開発に当たっては、結局は採用しませんでしたが、コード探索に適したMCPを検証したり、出典元を明示するようCLAUDE.mdを調整したりとトライアンドエラーもありましたが、そこまで手間はかかりませんでした。ちょうどClaude Codeがぐっと進化し始めたタイミングだったことも功を奏しました。
Q:今では『スタディサプリ』本体など他のプロダクトでも活用され始めているんですよね。
美馬:先ほども言ったとおり『Dr.English』は、GitHubとClaude CodeをGitHub Actionsでつなぐだけの非常にシンプルな仕組みです。これがもし『スタディサプリENGLISH』に特化した仕組みであれば移行も大変だったと思いますが、他のチーム、他のプロジェクトへも横展開しやすく、すぐ適用できる点が評価していただいたポイントかなと思っています。
Q:いわゆるAIのハルシネーションや誤回答のリスクはどう回避したのですか。
美馬:確かに間違った回答をする可能性はありますが、それは人間が調査した場合も同じです。また、CLAUDE.mdでしっかり出典元のソースコードやファイルパスを明記し、「推測はするな」と強く指示を出しておくよう注意を払いました。
Q:AIに問いかけてから回答が返るまでの時間も課題の一つではないかと思いますが。
美馬:そこは割り切って考えました。他チームに入っている別のチャットボットはRAGを活用することで30秒程度ですぐ回答を返してくれますが、『Dr.English』は回答に2〜3分かかります。確かに時間はかかるんですが、正確で精度の高い回答をしてくれるところに皆が信頼を置いて活用してもらっていると感じています。
定期的にアンケートを取っていますが、「回答時間が長すぎる」といったフィードバックはあまりありません。むしろ「もし自分で同じ作業をしていたら半日かかるような作業を削減できた」と、概ね高い満足度となっています。中には「『Dr.English』がある前とある今とでは、働き方が本当に変わった」といううれしい声もいただけました。
Q:実際の活用場面はどんな感じでしょうか。
美馬:多いのは、カスタマーサービスチームやマーケティング、営業チームから寄せられる問い合わせの回答です。以前は、まずプロダクトマネージャー(TPM)がこれらの問い合わせの一次受けとなり、エンジニアに調査依頼を出して確認してもらうフローでした。『Dr.English』ができてからは、エンジニアまで質問しなくても大半の質問に回答できるようになりました。この結果、フロー全体の時間も削減できていると感じます。
また、QAを依頼している外部の会社から不具合に関するIssueが上がってくると、自動的に『Dr.English』へ問い合わせを行い、適切な修正方法も含めて回答を得る連携機能もあり、便利に使われています。ちょうど昨日もAndroidエンジニアの方と話す機会があり、「QAから報告された5件の不具合のうち、4件は『Dr.English』からの回答の通りにするだけで直すことができた」と言っていました。
こうした連携機能は、同僚のエンジニアのメンバーに協力して作っていただきました。『Dr.English』が便利な基盤だ、ということが認識されるにつれ、どんどん好きにいろいろな機能を入れてもらっています。
Q:オープンソースソフトウェアのプロジェクトみたいですね。
美馬:そうですね。もちろん、自分自身や周囲のエンジニアも活用しています。ソースコードだけでなくデータベースのスキーマまで学習させているので、「こういったユーザーを絞り込むためのSQL文を書いてほしい」と、自分が苦手な領域をカバーしてもらったりもしています。
Q:エンジニアはともかく、非エンジニアが利用しやすくなるよう、ハードルを低くする工夫は加えましたか?
美馬:これは『スタディサプリ』チームの特徴かもしれませんが、エンジニアだけでなく全員がGitHubのアカウントを持っている強みがあります。一般的な会社に比べ、Issueを切るといった動作に対する抵抗感が非常に少なく、「こんなものを作ったよ」と言えば利用してくれる方が多い土壌があったのは助かりました。また、最初に使ってくれた同僚が「これはいいよ」と広めていってくれたことにも非常に感謝しています。

04. 社内で、そしてコミュニティでも負を解決するツールを提供
Q:以前からこんな風に、ちょっとした不便を解消する便利なツールを思いつき、形にしてきたのでしょうか?
美馬:元々CI/CDに関連する部分が好きだし得意ということもあり、開発からリリースまでのフローを便利にするツールをいくつか作ってきました。たとえば、ボタンをポチッと押すだけで、AndroidアプリのAPKファイルがGoogle Playストアにアップロードされてリリースできる仕組みを作ったほか、AndroidやWebの開発へのGitHub Actions導入も先導しました。
Q:社外のコミュニティでも活動なさっていますよね。
美馬:AndroidのUIライブラリをいくつかGitHubで公開しており、特にGitHub Actions用のライブラリである「setup-android」は、社内のいろんな部署はもちろん、社外でもかなり多く使っていただいています。ほかに、React NativeのExpoにコントリビュートしたり、Gradleにコミットしたりと、いろんなコードを書いています。
Q:本業の開発業務だけでなく、そうしたツールを作っているのはなぜでしょう?
美馬:自分がフロントエンドエンジニアをやっている大きな理由は、ユーザーに一番近く、「便利だ、うれしい」といった声が比較的届きやすいからです。「これっていいよね」と褒めていただけるところにやりがいを感じています。
今回の『Dr.English』も、仕様に関する問い合わせ対応が大変だ、というところから始まったプロジェクトでした。今後も何かしらの「負」を見つけたらまたチャレンジして、解決できるものを作れたらなと思っています。
Q:ご自身は今後、どんなキャリアを考えていますか? AIで開発の仕事がなくなるかもしれないという議論も起こっているようですが……。
美馬:実は自分は40歳で無職になりたいと思っているんですよ。ただ、コードを書くのも好きなので、まだ数年はちゃんとコードを書いていきたいと考えています。
この先、AIエンジニアの仕事がどう変化していくのかはわかりません。ただ、技術で問題を解決するというエンジニアリングの本質は変わらない気がしています。
記事中で紹介した事業(名称や内容含む)や人物及び肩書については取材当時のものであり、現時点で異なる可能性がございます。





